仕事を動かす大学職員になろう(非営利組織のコンピテンシー)

仕事ができる大学職員とはどういうものか、考えていきます。知識や情報の提供というよりは実務的な内容。非営利組織全般に通ずる話も出てくると思います。

視野を広げて「鳥の目」「虫の目」を使い分ける

ぽっど@です。

私が普段仕事をしていて大切にしていることのひとつが、「視野を広げる」ことです。
「鳥の目と虫の目を使い分けよ」という有名な言葉があります。

これは要するに「全体的なことをざっくりつかむ視点と、詳細的なことをしっかりとつかむ視点をうまく使い分けなさい」ということ。

(似たような言葉として、「幹と枝葉の関係」や、「木を見て森を見ず」などがありますね。自然界に置き換えるのが定番のようです。)

「目」の話は、最近だとトレンドや流れをつかむ「魚の目」も含めて3つセットで語られることも多いようですが、今回はシンプルに2つの「目」で話を進めます。

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この鳥の目と虫の目の関係は、色々なものやことに置き換えられます。

私はかなり広く解釈しているので、あまり見慣れないものも含まれるかもしれませんが、自分なりにいくつか例を挙げると以下のようになります。

左側の言葉が鳥の目、右が虫の目にあたります。

  • 全体 ⇔ 詳細
  • 抽象 ⇔ 具体
  • マクロ ⇔ ミクロ
  • 幹 ⇔ 枝葉
  • 過去、現在、未来など時間軸全体 ⇔ 現在
  • 自分や周囲を含めた全体 ⇔ 自分

実際に使い分ける時はさらに具体的な内容に置き換えていく必要があるのですが、それは今後取り上げていきます。

 

ところで、この2つの目を持つことは、簡単なようで意外とそうでもありません。特に、大学は虫の目に偏りがちになる職場環境だと私は感じています。 

前回のエントリーで、理想とは逆の人物像のひとつとして、「大学全体のことよりも、自分または自部署のことをいつも優先させる」を挙げました。これはまさしく虫の目に偏った一例です。

 

それでは、大学で働いているとなぜ虫の目に偏りがちになるのでしょうか。

私は以下のような大学ならではの理由があると考えています。

1.分かりやすい数字で共有できる共通目標や指標がないこと

企業で全社的に掲げられる目標や指標の多くは、利益や売上といった誰でも簡単に共有できるような分かりやすい数値です。その達成に向けて社員たちは努力します。

一方、大学では数値で評価できる目標や指標が掲げられることはあまりありません。

財務指標のひとつである帰属収支差額は、企業における経常利益のようなものなので本来は全学的な案件ですが、そもそも大学では収入を直接生み出す部局は募集(入試)などごく一部。

大半がお金を使っていく(その分価値を生み出しているとも言えますが)部署であり、そうした指標を出されても、実感が伴われにくいのです。

志願者数や科研費の採択率といった指標も、一部局においては重要な指標ではあるものの、全学的なものとしては認知されないところが多いのではないでしょうか。

教育や研究といった活動は、単純に数値に置き換えられない部分があるのは確かです。

2.業務内容や方向性が部署間で共有されづらいこと

部署ごとに業務が多種多様なのが、大学という組織の特徴です。

大学によっては課員が一人しかいない「一人部署」が置かれているところもあります。

また、同じ課であっても、担当業務が人によってまったく違うため、毎日机は隣同士でも業務内容はお互いブラックボックス状態、ということもあるでしょう。

業務が非常に多岐にわたると、他部署がどのような仕事をしているのか、どのようなことを今は重点課題と考えているのか、といったことが見えづらくなります。

3.鳥の目が必要である状況になってから間もないこと

虫の目、鳥の目は、企業では一般的な考え方です。

なぜなら、経営やマネジメントを将来担う人材を育てるためには絶対に「鳥の目」が必要となるからです。

鳥の目には色々な切り口があることは上で述べましたが、その中でも「自部局だけでなく組織全体の視点に立って物事を考えられるかどうか」という視点は非常に重要です。

先日、トヨタの人事に関する新聞記事で以下のような記述がありました。

トヨタ首脳は日頃、社員に対して「自分の役職より2階級上の目線で物事を考えてくれ」と訴えている。自分の部署だけでなく経営者に近い感覚でトヨタのことを考えて欲しいという思いからだ。(2015年3月5日 日刊工業新聞)

今回はたまたまトヨタの例を出しましたが、これはどのような組織においても必要とされる視点であって、大学も例外ではありません。

近年、大学においても経営やマネジメントの必要性が認知されつつありますが、長い歴史で見ればまだまだ最近のこと。上司や同僚がそのような視点を持っていなかったら、大学全体のことを考えるきっかけはなかなか訪れないかもしれません。

 

以上のことから、大学職員は日々の目の前の業務をこなすことに追われ、「鳥の目」が養われにくいのではないかと私は考えています。

ですから、私たちは意識的に視野を広げていくことが必要です。

 

これからもう少し具体的な内容に入っていきたいと思いますが、その前にひとつ強調しておきたいことがあります。

それは、虫の目をないがしろにしていいというわけではないということ。

「視野を広げる」というのは、あくまで鳥の目と虫の目をバランス良く使い分けることです。鳥の目に偏ってしまっては意味がありません。

また前回のエントリーから引用しますが、「評論家のように、批評したり抽象的なことを語ったりすることばかりに興味がある」という人物像は、鳥の目に偏ってしまった一例です。特に、入職まもない新人層~若年層の職員は、まずは実務的な成果を要求されます。

大学全体や教育業界全体を見る視点は確かに大事ですし、実務の中でそうした視点が必要となることは多々あります。ですが、置かれた立場で必要となるバランスを崩さないこと、これこそが仕事を進めていく上でのポイントとなります。

なお、「虫の目に偏った管理職と、鳥の目に偏った課員」という状況はもっとも避けたい職場環境のひとつですが、色々な大学の話を聞いていると、意外とあるようで…。


前置きが長くなってしまったので、次回に続きます。