仕事を動かす大学職員になろう(非営利組織のコンピテンシー)

仕事ができる大学職員とはどういうものか、考えていきます。知識や情報の提供というよりは実務的な内容。非営利組織全般に通ずる話も出てくると思います。

自部局にとってのプラスだけでなく組織全体にとってのプラスを考えよう

ぽっど@です。

前回の記事で、視野を広げることの必要性を、「虫の目」「鳥の目」の例を用いてご紹介しました。

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今回からもう少し具体的な内容に踏み込んでいきたいと思います。

上の記事で、視野を広げるアプローチにはいくつかあることをお話しました。

その中でも、組織全体の観点からものごとを見ることというのは重要なアプローチのひとつです。上の記事で引用したトヨタの記事にもあったとおりですね。

虫の目、鳥の目の構図を当てはめると「自部局 ⇔ 組織全体」という関係ですね。言い方を変えれば、「部分最適」と「全体最適」の話でもあります。

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今回はこのことについて考えみましょう。

ところで、私たちは基本的にどこかの部局に所属して仕事をしています。

各部局には何かしらの目標やミッションが課されていて、それを達成するために課員たちは日々努力します。

そうした各部局の目標やミッションは上位組織の目標とリンクするのが一般的なので、各部局にとってプラスなことは、基本的には組織全体にとってもプラスとなります。

例えば、「志願者を入学定員の◯.◯倍以上集めること」という目標があったとします。これは募集(入試)の部局とってのプラスとなる目標ですが、同時に大学全体にとってもプラス要素です。

一方で、目標を達成する過程で必要となる資源、いわゆる「ヒト・モノ・カネ」が絡んでくる案件は、個別部局と組織全体ではプラスマイナスが一致しないことがあります。

 

まずヒト(人員)についてを例にあげて考えてみましょう。

「忙しいから職員を増やしてほしい」と主張する部局があったとします。

一般的に、人が増えることは単純にマンパワーが増えるので、その部局にとってプラスなことだと言えます。

一方で、人員が増えれば、当然その分人件費が上がります。

人件費があがっても、それに見合う効果をあげられればまだいいでしょう。今回の例で言えば、「課員一人当たりの残業が減る」「雑務に追われるのみでなく新しい試みを企画する」などの切り口からの効果が考えられます。

ですが、組織は人で成り立っています。

新しく来た人が仕事にマッチしない、または他のメンバーと仲違いが起きて仕事が滞る、などのトラブルが起きる可能性もあります。人は増えたけど忙しさはあまり変わらなかったということは、それほど珍しくないのではないでしょうか。

企業のように人員整理が簡単でない大学においては、「人を増やす」というのは企業以上に重い判断です。

今の時代で財政状況に余裕のある大学は決して多くありません。たとえ今は良好であっても、10年後、30年後の見通しは視界不良です。こういう状況下では、判断の重みはさらに増してしまいます。

もちろん、どうしても人を増やさなくてはいけない状況もあるでしょう。

ですが、「忙しいから職員を増やしてほしい」と主張するよりも前に、仕事のやり方を変えたり、業務効率をあげる工夫を凝らしたりなどして「人を増やさずに問題を解決できないか」ということをまず探るほうが、長期的には自部局、大学全体双方にとってプラスにつながるのではないでしょうか。


以上、部局にとってのプラスが組織全体にとってのマイナスになる構図の例を挙げました。

次に逆の構図、つまり「部局にとってのマイナスが、組織全体にとってはプラスとなる構図」の例を見てみたいと思います。

 

今度は先ほど挙げた資源の中からカネ(予算)を取り上げてみます。

自部局のことのみを考えれば、予算はあるに越したことはありません。あればあるほど、何かをする際の選択肢が増えるからです。そして、もし何らかの理由で、必要以上に予算が多くついてれば、期末が近づいてもある程度の残額が発生するでしょう。

しかし、これは自部局のプラスのみを考える人の目には、不都合なことと映るかもしれません。

なぜなら、残額を多く残したままにしておくと、予算編成をする大学執行部から余分であると思われ、次回以降予算が削減されてしまう可能性があるからです。

これを避けるために行われるのが、いわゆる「予算消化」「年度末駆け込み」です。

皆さんの部局では、年度末が近づくと実際はそこまで必要ではない物品購入や出張がなされていませんか。

本来、ある部局で不必要に予算が多いのであれば、削減して他に優先度の高い事業に資源を集中することが、大学全体にとってのプラスです。

しかし、自部局視点で見れば、予算が減ることはマイナスになるため、上で述べたような無駄遣いにブレーキがかからないケースが多く、予算の削減は自主的にはなかなか進みません。

コスト意識をしっかり持ち、業者と交渉して価格を適正な水準に調整したり、不必要な事業の実施や物品購入などをやめたりれば、予算を減らしながら業務の質を落とさないで済む余地はあるかもしれません。

大学の人は、そのあたりの交渉やアイデア出しは得意でないように思います。

私は、執行部や財務(経理)から、予算削減の数値目標が課されてなかったとしても、自ら部局のムダな予算を圧縮していくくらいのスタンスでいてもよいと考えています。

これこそが本当のボトムアップだと思うからです。

 

最後に、なぜ組織全体(大学全体)の視点が必要かということについて2点まとめます。

第一に、私たちは、最終的には所属大学そのものの価値を向上させることを目指しているからです。

自部局を優先するあまりに所属大学の価値が損なわれるような方策を取ることは、本末転倒です。自部局にとってのベストの選択肢が、大学全体にとってもベストであるとは限りません。

第二に、部局同士で意見が対立した時に、解決の糸口になりうるからです。

お互いが自部局のことばかりを主張していると、歩み寄りが難しくなり不毛な衝突に終始してしまいます。利潤を追求する組織ではない大学だからこそ、大学全体にとってベストな選択肢は何かという視点から考えることによって、単純な部局間の損得勘定から離れた解決策を得られるチャンスが出てきます。

 

以上、自部局と大学全体の2つの視点について見てきました。

次回は別の切り口から視野の広げ方について考えてみます。