仕事を動かす大学職員になろう(非営利組織のコンピテンシー)

仕事ができる大学職員とはどういうものか、考えていきます。知識や情報の提供というよりは実務的な内容。非営利組織全般に通ずる話も出てくると思います。

先人の言葉に見る業務引き継ぎや人材育成のポイント

ぽっど@です。

今回は業務の引き継ぎ、広い意味での人材育成について、考えてみたいと思います。

大学職員は、民間企業の会社員と同様、数年ごとに異動するのが一般的です。したがって、業務の引き継ぎや人材育成の必要性が出てきます。

しかし、人に教えること、人を育てることは、苦労を伴います。なぜなら、自分自身がコントロールできる範囲を越えたところ(他者)を扱うことになるからです。

また、教え始める時点では教える側(自分)のほうが当然仕事を理解しているので、仕事を任せた時にもどかしい部分が出てきます。

それをぐっとこらえなくてはいけないのも、人材育成の大切なステップです。

この記事では、まずは人材育成に関連した3つの先人の言葉をご紹介し、あるべき人材育成のポイントを考えます。

ことわざを含め先人の言葉は数多くありますが、21世紀となった今もなお残り続けている言葉は、それなりに真理をついているからこそだと私は考えています。

そのあとで、大学業界でよくある「人材育成」の例を見てみます。

先人の言葉1 「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」

元海軍軍人の山本五十六のこの言葉は、人材育成やリーダーシップなどを語る際によく取り上げられます。内容はそのままといえばままなのですが、ざっくりいえば以下のようなことでしょう。

まずは自分が実際に模範を示し、内容を説明して理解してもらい、その後相手に実際にやってもらい、適宜ほめること。

特に「やってみせ」と「させてみて」の部分が肝要かと思います。自分がやってばかり相手に任せないのはダメ。自分がフォローせず相手にやらせっぱなしもダメ。

つまり、人材育成は一朝一夕にできるものではなく、ある程度のステップを踏んでいかなければいけないという意味で、教える側に「忍耐」が必要だとも言っているように私は思います。

先人の言葉2 「守破離」

日本が大切にしてきた、「道」における師弟関係についての言葉です。何百年も前に生まれたものだと言われています。

辞書には以下のように紹介されています。

剣道や茶道などで、修業における段階を示したもの。「守」は、師や流派の教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階。「破」は、他の師や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ、心技を発展させる段階。「離」は、一つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階。
http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/jn2/268601/m0u/ goo辞書より

これを私たちの職場ではどう解釈できるでしょうか。

教える側の視点に置き換えると、まずは自分が教えることを相手に身に付けてもらい(「守」)、そこに他大学の事例や相手自身のこれまでの経験などを参考にしつつより良いものを試行錯誤してもらい(「破」)、自分なりの改善を加えたやり方を確立してもらう(「離」)。

私は、この守破離の考え方に、仕事の引き継ぎ方やマニュアルの正しいあり方があると感じました。守破離の考えでは、はじめに教えられたものを「型」と呼ぶことがあります。

これを「マニュアル」に置き換えて、先ほどの文章を再解釈してみましょう。

(1)マニュアル(型)の内容を相手に身に付けてもらう(「守」)

(2)マニュアルの内容をもとに、他大学の事例や自身の経験などを参考により良いものを試行錯誤してもらう(「破」)

(3)自分なりの改善を加えたやり方(新しい型)を確立してもらう(「離」)

つまり、マニュアルというのはあくまで「型」であり、そこからはみ出てはいけないということではないということ。もちろん、はじめはマニュアル通りにやってよいでしょう。

しかし、実際にやっていくうちに、ひょっとしたらより良い別のやり方を思いつくかもしれません。また、環境の変化などで当初のやり方を変えざるをえないときも出てくるでしょう。マニュアル(型)は参考にされるべきですが、永遠不変のものではありません。状況に応じて臨機応変に用いられるものです。

そして、この流れをそのまま推し進めると、4つ目の段階があることがわかります。お分かりでしょうか。それは、

(4)確立した新しいやり方(新しい型)をマニュアルに反映させる

というものです。

古い「型」からはみ出た結果成功したのであれば、「型」を古いままにしておくのではなく、新しい「型」を標準として見える形にして将来につないでいくことによって、仕事をするうえでの基本中の基本である、PDCAがしっかりと回っていくことになります。

ちなみに、「前例主義」「マニュアル人間」になるかならないかの分水嶺は、「守」から「破」の段階へと移れるかどうかではないかと私は思っています。

「守破離」は、短いですが奥深い言葉ですね。

先人の言葉3 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」

ドイツ帝国宰相であったオットー・フォン・ビスマルクの言葉です。

この言葉は、自分の経験からばかりではなく、他人の経験から学ぶことの大切さを説いています。具体的にはどういうことなのでしょうか。

まず、この言葉の前半のポイントは「すべて最初から自己流でやることは避けよ」ということ。もちろん、失敗することは成長するのに大切なステップであり、失敗からでしか得られないことはたくさんあります。実際、本田宗一郎など成功者の多くが失敗の必要性を語っています。

一方で、無駄とまでは言わないものの、得るものが少ない失敗というものもまた存在します。例えば、少し考えれば、または少し調べれば避けられる失敗からは、学べることはそう多くはありません。

それでは、どうすればよいのでしょうか。

答えは後半のポイントである「他人の事例を参考にする」ということ。これは守破離の「破」でも必要となる視点ですね。いま自分が直面している疑問、課題、困難、チャレンジは、ひょっとしたら既に他人(他大学)が経験しているかもしれません。

成功であれ失敗であれ、その事例を知ることができれば、自分たちに応用できる可能性は大いにあります。

人を育てる際にこのことを教えてあげれば、教えられた側が今後何かの壁にぶつかった時に、自分ですべて消化しようとせず、他部署や他大学でうまくやっているケースはないかということに必然的に目を向けてくれることと思います。


以上のように、先人の言葉には多くのヒントを見出すことができます。


皆さんの職場での状況はいかがでしょうか。

不思議なことですが、大学は人を教育する機関でありながら、内部のスタッフを教育したり、うまく活用したりするのが得意でないように私には見受けられます。

ここからは、3つほど改善すべき例をご紹介したいと思います。

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改善すべき例1 仕事を抱えてすべて自分でやってしまう

山本五十六の言葉にも「させてみて」というくだりがありました。相手に任せてみること。これが人材育成において大切な段階のひとつです。

長年同じ人が同じ業務を担当していると、どういった仕事をしているのか周囲からは分かりづらいブラックボックス状態になりがちです。

それを避けるために複数担当制にしても限定的な仕事しか共有させてもらえず、根っこの仕事はその人しか分からないまま、といったパターンが多いのではないでしょうか。

こういった行動の背景には「人に任せると自分の思ったとおりにいかない」という認識があることが多いと思われます。

これはある意味では当たっています。長年同じ人が担当していた業務を、まったくの別人に切り替えれば、一時的にそれまでよりも仕事の質が下がってしまうことは往々にしてあります。

しかし、だから自分でやったほうが早い、とするのは長期的な視点、人材育成の観点が欠落した利己的な発想と言われても仕方ありません。

もうひとつ、こういった人たちの中には、仕事の内容を自分なりのこだわりや専門性に合わせて変質させてしまう「職人技化」させる傾向もあるので、やっかいです。

大学職員という職業は、ある程度の専門性を持ちつつも数年スパンで異動する宿命にあるのですから、仕事は替えがききづらくなる「ブラックボックス化・職人技化」ではなく、やっている内容を可視化して、将来誰が担当しても良いように「標準化」していくことが求められます。

改善すべき例2 ろくに引き継がず相手に仕事を投げてしまう

今度は逆の例です。守破離でいう「型」を一切示さず任せっぱなしにしてしまうというものですね。

このタイプの根っこにあるのは、「任せる」と「放置」の混同です。

こういった人たちの中には、自分自身がそうやって先輩から仕事を引き継がれてきたという人もおり、「自分でやりながら覚えていくことこそが仕事だ」という事実誤認をしていることが多いのがやっかいです。

まず教える相手に対して、自分が手本を見せるなりマニュアルを共有するなどして型を提示し、駆けっこで並走するように仕事を一緒にしていく期間を設ければ、足らないところやイレギュラーなトラブルなどをフォローしながら教えられるので、担当が変わった際に仕事の質が急落することを防げます。

改善すべき例3 マニュアルを作らない

前の2つの現象どちらにおいても見られる関連現象です。
また、これについては意外と優秀な人でも誤解していることが少なくありません。

山本五十六の「やってみせ 言って聞かせて」、守破離の「型」、ビスマルクの「賢者は歴史に学ぶ」で見てきたように、それまでの仕事のやり方やポイントを示すマニュアルは必要です。

そうしなければ、いつまでたってもKKD(経験・勘・度胸)に頼ったまま、すなわち仕事が人にくっついたままになってしまいます。

マニュアルの内容は業務の性質によって大きく変わってきます。

単純作業など定型的業務であれば作業手順書のようなものになるでしょう。

非定型的な業務であれば、仕事の全体像や流れ、判断にあたってのコツやポイントを見える形で示す必要があります。

これは、教えられる側がほぼゼロからスタート、ということのないようにするための最低限のことです。

マニュアルを作るのは面倒な部分もありますが、業務の概要を記したメモ程度のものでもよいので、残しておきましょう。一番楽なのは、仕事をやりながらマニュアルを作っていく&修正していく方法です。

 

以上見てきたように、人材育成とは労力のかかることです。

しかし、ここをおろそかにすることは、苦労の先延ばしに他なりません。

改善すべき事例を3つほど挙げましたが、いずれに共通するのは「自分」や「今」といった限定的な視点です。「後任の人がスムーズに仕事ができるようにする」「いつ自分が異動しても穴が開かないようにする」といった部分にも意識を向ければ、おのずとやるべきことは見えてくるでしょう。

まとめ

  • 「いつ自分が異動しても大丈夫なようにしておく」くらいの気持ちでいましょう。
  • 仕事は抱えすぎず、任せっぱなしにしすぎず。「任せる」と「放置」は違います。
  • 人を育てることは、ある程度の忍耐が必要です。